「これ、すごく珍しくてうまいですよ、ただし、食べた人の約半分はお腹を壊しますけれどね。」と言われては、例えうまそうでも、喜んで口にする人はほとんどいないと思います。
お腹を壊すリスクが5割というのは危険です。それでは、何割程度のリスクだったら手を出すのでしょうか。
例えリスクが1割に満たなくても、自分自身の腹に入るものなら大半の方は躊躇し、遠慮し、拒否するのではないでしょうか。
さて、経営する企業は自分の体、そして、新たに採用する人は未知の食べ物と考えれば、企業経営者が採用面接の際、様々な手段で応募者の能力や人となりを推察し、致命的なリスクの有無を見極めようとすることは当たり前のことです。
では、どのようにしてリスクを見極めればいいか。
どの程度、入社後のリスクを面接時に想定することが可能なのか。
口で言うほど人の見極めは簡単なことではありません。
「採用後に何かが起きても、それはその時に考えればいい」と楽観的視点をお持ちの猛者もいるかもしれませんが、大手企業の人事部は採用後のリスク重視の選考を基本にしています。
しかし、当然のことですが、応募者自身もその企業で働く場合のリスクについて応募する前から下調べをしています。
応募者にとって面接とは、既に入手している情報の制度を最終確認する場になっているかもしれません。
雇用契約の締結は対等の立場が原則ですが、採用面接の場では企業側と応募者側では事前に入手している情報量は明らかに違っています。
企業の情報はホームページやハローワークで簡単に手に入りますし、ブラック度が気になれば最近ではスマホで簡単に確認できます。
これに対し応募者の情報は応募者が書いた履歴書に書かれている程度。
探偵を雇っての素行調査は不要ですが、その他の合法的な手段を事前に準備検討して、自らが口にする食べ物のリスクを心配するぐらいの慎重な気持ちで、採用面接に臨んでいただきたいと思います。
『無難な人材はいらない』7月に東京で開催された統計学に関するセミナーに参加した際、講師の一人楽天の執行役員の方が口にされた言葉です。
経済成長が右肩上がりであった時代なら、無難な考え方をする人材の使い道もありましたが、経済が安定し、あるいは右肩下がりの時代にあっては、リスクを意識し何事にも挑戦する人材でなければ、企業は必要としないという話でした。
無論、様々なタイプの人材を揃えて日々の企業活動に取り組むわけですから、『無難な考え方』をする人材が全く必要とされなくなったわけではありませんが、時代の先端を突き進む企業の経営者の言葉には、強く心を揺さぶられました。
私自身は日頃から、個々の企業の経営において、企業を取り巻く環境全体を見て判断する無難なマクロ的な見方よりも、自社の持っている特性や潜在能力におけるリスクを把握するミクロの見方をすべきだと申し上げております。
例えば、同じ地域の同業他社の景気動向を分析し、それをモノサシにして自社の状況を評価し、今後の事業展開を検討することは、一見無難な方法のように思えますが、少しの間他社に差を付けることは出来ても、継続的に成長し続けるようなアイデアにはつながらないと思うのです。
企業の成長には人材育成は欠かせませんが、育成しようとする人材の素養として、何事にも『無難であろう』とする潜在意識を持つ人材は、育成しにくいのではないでしょうか。そういった視点で見ると、採用時に評価する社会人経験の長さはマイナス要因かもしれません。採用に際し、敢えて『未経験者限定募集』を掲げる企業も最近では珍しくないようです。